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『人馬 (一) 』 墨佳遼 著 感想

人馬 (一) 墨佳遼 (著)



作者HP:かいきがどう - kaikigadou ページ!

Web:墨佳遼 | Matogrosso

よく「人馬一体」なんて言葉がありますが、このマンガは文字通り上半身が「人間」で下半身が「馬」、つまりケンタウロスが主人公の和風ファンタジーになってます。だからケンタウロスという言葉は出てこなくて、和風で「人馬」なんですね。

古代の日本、さしずめ鎌倉時代あたりの文化で、貴族が人馬を奴隷として使役している社会構造になっている。人馬は、戦国の世では戦の道具としても優秀で、そのため人馬の尊厳を奪っている、残酷な世界。

野を駆け回る牡馬の松風は、息子をかばって人馬狩りに捕まってしまう。

普通人馬は、反旗を翻すことのないよう両腕を斬り落とされる運命だ。しかし松風は美しい赤髪の名馬だからか、両腕は残したまま調教小屋に入れられてしまうことになる。

そこに現れたのは、最高の駿馬と評されている小雲雀(こひばり)。優男風のイケメン人馬は、松風に脱走計画を持ちかけるのだが……。



まず触れたいのが画力のすさまじさ。躍動感溢れる馬の流線など、まるで絵画のように描かれていて、冒頭から目を奪われるほど。
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特に荒々しい気性の松風の力強さが、作者の極太のタッチと相性が良い。この後ろ足の蹴り上げとか、人が100人は殺されたそうだけど、さもありなんという説得力がある! 人間部分も、背中の筋肉隆々とした肉付きなど、漢らしさ全開ですね。

かと思えば小雲雀の中性的な美しさも抜群で、松風とは別方向の美麗さが感じられる。

この性格も育ちもバラバラの二人(二頭?)が追っ手から逃れて、時に雪崩といった大自然に翻弄されて、時に人間に騙されて、それでも松風の妹へ会いに行こうとするのが一巻の流れ。

人間よりも人らしく、馬よりも雄々しい生き方のド迫力が魅力! 続きが早く読みたくて、2巻が今から楽しみだ。

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ 永田カビ (著)

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ 永田カビ (著)



去年話題になっていたこちら、『このマンガがすごい!2017オンナ編』で第3位という高評価の衝撃作。

「レズ風俗」というパワーワードに印象を持っていかれる感じだけど、語られているのは、孤独感とか、居場所がないとか、精神的にキツイ思いをしている一人の女性の、生きづらい世渡りの壮絶なノンフィクションになっている。

拒食症で身体の傷が全然癒えなくて、ヒーターに当たるだけで火傷したり、過食症でバイトの休憩時間にカップ麺を生のまま齧るほど飢えていて、スープの粉を振りかけても隙間からこぼれ落ちるので味がしないエピソードまで。もうその筋の人しか体験できない、生々しい実例がバンバン出てくる。

特に感じるのは、親から認められたい、親のご機嫌を取りたいという強迫性障害の苦しみ。でもそこから開放されたいために、いきなりレズ風俗を体験するという、一足どころか、何足も飛びまくってるよそれ!!

「自分で自分を大切にしてない、自分の気持ちをわかるようになりたい」という気づきによって永田カビ先生はレズ風俗を体験するんですが、風俗のお姉さんに心を開けなかったという後悔はあるものの、覚醒したように漫画家として前向きに前進していく、爽やかな〆は希望を感じさせる。



永田カビ先生の心の病は、エロへの抑圧、性欲を否認し続けたことで、心のバランスが崩れていたのかなと感じる。なので「ハグされたい」願望の突出した執着に繋がって、母性(女性)に抱きしめられたいって気持ちに転化され、その延長線上にレズ風俗があったわけだ。

精神障害の話は、なかなかに読む側もエネルギーが消費されて、引きづられるとダウナーな気分になってしまう。

無論それが悪いわけではなく、永田カビ先生がここまであけすけに心情を吐露して訴えてくる切実な心の叫びが、読むと一生忘れられない作品に仕上がっている。

永田カビ 12/10『一人交換日記』(@gogatsubyyyo)さん | Twitter

「永田カビ」のプロフィール [pixiv]

「漫画家としてしか、生きていけない」永田カビさんインタビュー - pixivision

『ヴィンランド・サガ』から教えてもらった、人の世の生きづらさと、それでも自分を貫くことの大切さ

なぜか自分は人生が辛くなると読み返すマンガがありまして、それが幸村誠先生の長編マンガ『ヴィンランド・サガ』であります。



あらすじ

千年期の終わり頃、あらゆる地に現れ暴虐の限りを尽くした最強の民族、ヴァイキング。トルフィンと名づけられた彼は、幼くして戦場を生き場所とし、血煙の彼方に幻の大陸“ヴィンランド”を目指す!!


■世間に迎合することができないグズリーズ、その心の悲鳴

心が弱ってる時にこのマンガを読み返す理由がよくわからなかったんですが、どうやら私は、登場人物たちの生き様に強い共感を覚えているからじゃないかと気づいた次第。

今回共感を覚えたのは、15巻から登場するグズリーズ。



彼女は明るくて元気いっぱいの少女なんだけど、家事は苦手で「女らしくない」と周囲の大人から呆れられている。

そんなお転婆娘にも、いよいよ結婚の話が舞い込む。

それも豪族のハーフダン、その息子シグルドというこれ以上ない縁談に、義理のお姉さんも大喜びで祝福する。

だけどそれは、グズリーズの本意ではなかった。

彼女は幼い頃からレイフに、いろんな船旅の思い出を聞かせてもらっていたので、しだいに海に憧れを持つようになった。

瞳をキラキラさせてレイフの冒険譚に聴き入っているような少女は、いつか大海原で冒険したいという気持ちを、大人になってからも持ち続けている。

そんな跳ねっ返りの性格なので、当然、恋とか愛なんてまったく興味がないまま育ってしまった。

なのでシグルドとの初夜を迎えたグズリーズは、シグルドの足を刺して逃亡してしまう。

逃げてきたグズリーズは、主人公・トルフィンたちに胸中を打ち明ける、このシーンに刮目してほしい!

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「みんなが……当たり前にできることが、できなきゃいけないことが……っ できない……」

「でも……っ どうしようもないんだ 自分でも……」

※16巻より

もうね、号泣です。私自身も昔からそうだった。

クラスメイトたちが騒いでいる音楽とか芸能人とかにちっとも興味が持てず、無理して話を合わせようとしてCDを聴いたりトレンディドラマを見てみたけれど、ちっとも楽しくなんかなかった。

一般の人と世間話ができないのも辛いんですよ。

みんな明日は天気だとか、昨日見たTVがどうだとか、普通に会話してる。

でも、自分にはそれができない。急に話しかけられても、なんて返事すればいいのかものすごく難しくて、心が悲鳴を上げるような痛みがしんどい。

そういう事態に陥ると「自分は社会に適合しない、ダメな人間なのだ、人間失格だ」というみじめな気持ちに陥ってしまう。

これ、普通に会話できる人には絶対理解できない感情だと思うんだけど、わかってくれる人もいますよね?


だからグズリーズが感じている閉塞感には、ものすごく共感を覚えるんです。



■困難でも己を貫く生き方を選ぶトルフィンとグズリーズに、人生の理想を見た

ヴィンランド・サガ』で描かれている物語には、時に残酷な悲劇がままある。何の罪もない平和に暮らしていた村が、いきなり傭兵たちに皆殺しにされたりするという、目を覆いたくなるシーンが日常のように起こっているのだ。ん~エグい。

そんな理不尽や不運から、グズリーズのような悩み、一度復讐に堕ちたトルフィン。

さらにトルフィンの敵であるアシェラッドに至るまで、弱者から強者に至るまで誰もが苦悩しながら、それでも生きることをやめずに前に進む物語になっているところに、ものすごく夢中になれる。

一度は奴隷にまで身をやつしたトルフィンは、復讐も、闘争も、すべてを飲み込んで「戦争も奴隷もない平和な国」を作ることを目指す。
その前向きな姿勢には、私の心のあり方にも大いに影響されて、すごく刺激されてしまう。

「どうして、自分の生き方を、自分で選べないの?」

グズリーズは問い、トルフィンは答える。

「選べるさ」

「ただし、」とトルフィンは付け足す。

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「生きてここへは戻れないかもしれない。それでも一緒に来るかい?」

お前(グズリーズ)が選ぼうとしている道は、険しい道なのだと諭す。

本当は結婚して子供を産んで育んで、織物を編み、羊の世話をして社会に溶け込むことの方が、人生も楽には違いない。周囲の大人は望むし、家も繁栄する。

でも、そんな当たり前のことが苦しくて辛いというグズリーズは、一緒に船旅に出ることを決意する。

……まあノルドの男が名誉を傷つけられて黙っているわけはなく、シグルドからの追っ手から逃げるためというのも大きいんですけどね。

でもこのやり取りからは、己を貫くことの困難さと、それでも自分を曲げずに生きていこう!という力強いメッセージを感じる。

私にとってのヴィンランド(理想郷)を探す旅も、自分を貫かないと見つけられないものだろうから。


ヴィンランド・サガ』といえば、バイキングの派手な戦闘もかっこよく、緻密な絵から伝わるド迫力も魅力的です。

ですが「動」の部分と同じくらい、こういう「静」のシーンにこそ、作品の深みが増すエッセンスが凝縮されているところに、私は惹かれるのだなあと思います。

少年ジャンプ+新連載『俺を好きなのはお前だけかよ』マンガ:伊島ユウ 原作:駱駝/ブリキ 感想

少年ジャンプ+新連載『俺を好きなのはお前だけかよ』

俺を好きなのはお前だけかよ』マンガ:伊島ユウ 原作:駱駝/ブリキ

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※1話、2話のネタバレあります

可愛い系幼馴染み・ひまわりと、クール系美人の生徒会長・コスモス先輩。

その二人から頼られている「如月雨露」(ジョーロ)は、平凡で鈍感な無害なキャラとして着実に仲良くなってフラグを積み上げていた。
そんな折、コスモス先輩から呼び出されることになったジョーロは、ついに告白される事を覚悟して、キメキメの私服で待ち合わせ場所へ向かうのだが……。




電撃文庫の新シリーズで非常に勢いのある新感覚ラブコメ俺を好きなのはお前だけかよ』。

その人気作がKADOKAWAではなく、集英社にてコミカライズがスタートしたというのが意外であった。

この『俺好き』のどこか新感覚かというと、今までの王道ラブコメにありがちな設定や展開の裏をかくギミックが満載なんですよ。

例えば主人公のジョーロは、ブコメやギャルゲーにありがちな特に個性のない、鈍感で地味な男の子……の皮をかぶった、計算高い腹黒キャラ! つまり、あえてモテるために外面を変えているわけです。

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ジャンプ漫画では『デスノート』の夜神月以来の悪どい主人公キター!



ところがヒロインたちも負けてない。コスモス先輩もひまわりも、意中の人はジョーロ……の親友という酷いオチ。

策士、策に溺れるジョーロだけど、ここからの不屈の闘志がすごい。

「どっちかの恋が成就したら、片方のおこぼれをもらう」とかね、もうホントにゲスの極みってこういうことだよっ!!

この1話と2話だけでも、ジョーロの空回りのおかしさが存分に味わえます!

そしてここから下心丸出しの恋のサポートが始まるんだけど、原作小説でもコミカライズのイラストでも、もう一人、黒髪で三つ編みのメガネっ娘がいますよね。

この子が一番の爆弾でして、最高のイチャラブ学園生活をエンジョイしたいジョーロにとって、もっとも障壁となるラスボス的存在なんですよ。たぶんこの次に出てくるはず。



ということで、はじまったばかりの『俺を好きなのはお前だけかよ』。漫画の構成は原作よりもだいぶ改変してるんですけど、逆にわかりやすくなっていて読みやすいと感じました。


小説は感情の機微を描くのに適した媒体で、漫画はスピーディな展開に向いている媒体。その違いを逆手にとっての、こうした大胆な改変はむしろ歓迎です。

「メディアの違いを理解せよ」って桜野くりむさんも言ってたしね!